日本はEVの「超先進国」なのだ!(その4)

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日本が「EV一辺倒」にならなかったのは、遅れていたからではない

おはこんばんにちは。力学観測研究所のRYOです。

前回は、

EV化とは、単にエンジンをモーターへ載せ替える話ではない。

市場/物流/企業戦略/雇用/消費

そしてお金の流れ。

そのすべてを組み替える、

巨大な産業構造の変化である。

という話をしました。

今回は、もう少し私たちの生活に近いところから考えてみます。

なぜ日本は、

欧州や中国のように、

「これからは、とにかくBEVだ!」

という方向へ一気に進まなかったのでしょうか。

日本のメーカーが出遅れたから?経営者の判断が遅かったから?日本人が新しいものを嫌うから?

もちろん、そういう面がまったくないとは言いません。

でも私はそれだけでは説明できないと思っています。

日本には、

日本なりの地理/都市構造/住宅事情/電力事情/産業構造

そして、すでに大量に普及していたハイブリッド車があります。

今回は、

日本がEV一辺倒にならなかった力学

を観測してみます。


まず、日本政府は「EV化」を拒否していません

ここは最初に確認しておきたいところ。

日本政府は、

EVの普及そのものに反対しているわけではありません。

乗用車については、

2035年までに新車販売を✨電動車100%✨にする目標を掲げています。

ただし、

ここでいう「電動車」には、

BEV/PHEV/FCV/HEV

https://www.meti.go.jp/press/2024/12/20241227006/20241227006-6.pdf

が含まれています。↑参照元

つまり日本の方針は、

「2035年にガソリンだけで走る新車をなくしていく」

であって、

「2035年にすべての新車をBEVにする」

ではありません。ここを混同すると、

日本の政策がとても消極的に見えます。

しかし実際には、日本は電動化を否定しているのではなく、

電動化の方法を一つに限定していない。

ということで、ここに日本の考え方がよく表れていると思います。


日本には、すでにハイブリッドという答えがあった

日本でBEVの販売比率が低い理由を考えるとき、

無視できない存在があります。

そう、ハイブリッド車です。

ハイブリッド車は、エンジンを搭載しています。

そのため、BEVの統計では通常は純粋なEVとして数えられません。

しかし実際には、モーター/インバーター/回生ブレーキ/駆動用バッテリー/電力制御

そうした電動技術を大量に使っています。

日本の国内新車市場では、HEVの比率が長期的に上昇し、BEVやPHEVよりもはるかに大きな市場を形成してきました。経済産業省の資料でも、2023年度の国内新車販売においてHEVが電動車の中心であったことが示されています。

つまり日本人は、

電動車を拒否したのではありません。

むしろ充電器を探さなくてもいい。

長距離でも困りにくいし燃費も良いし従来のガソリンスタンドも使える。

そんな、今までの生活を大きく変えなくても使える電動車を選んだのです。

これは保守的ではなくかなり合理的だったと思います。


BEVは「クルマだけ買えば終わり」ではない

ガソリン車やハイブリッド車ならクルマを買ったあと、

近所のガソリンスタンドへ行けば使えます。

しかしBEVは、

クルマだけでは完成しません。

充電設備が必要。自宅で充電するのか?勤務先で充電するのか?買い物中に充電するのか?高速道路で急速充電するのか?

つまりBEVは車両と充電環境をセットで買う乗り物です。

一戸建てで、

敷地内に駐車場があり自宅へ充電器を設置できる人ならBEVとの相性はかなり良いでしょう。

夜に帰宅してケーブルをつなぐ。朝には充電されている。ガソリンスタンドへ行く必要もない。

これは便利!

でも……

集合住宅ではどうでしょう。

立体駐車場/機械式駐車場/月極駐車場/賃貸住宅/管理組合/電気工事/費用負担

誰が充電器を設置し誰が電気代を管理し故障時に誰が対応するのか。

一戸建てなら個人の判断で済むことが集合住宅では、

合意形成の問題になります。

BEV普及の難しさは、バッテリー性能だけではありません。

コンセントまでの人間関係的なもの。これが意外と大きい。

政府は2030年までに公共用充電設備を30万口まで拡大する目標を掲げており、IEAも日本が2024年末時点から大幅な増設を目指していると整理しています。

裏を返せば、

今後それだけ増設しなければ、

BEVをガソリン車並みに便利には使えないということでもあります。


東京と地方では、同じ日本でも条件が違いすぎる

日本の交通政策を難しくしている理由の一つは、

都市部と地方で、生活の形がまったく違う

ことです。

東京や大阪の中心部では、

鉄道🚃/地下鉄🚆/バス🚌徒歩🚶/自転車🚲

さまざまな移動手段があります。クルマを持たなくても生活できる人も多い。

むしろ、駐車場代渋滞維持費。それらを考えると、

クルマを持たない方が合理的な場合すらあります。カーシェアも便利だしね!

一方で地方では、

通勤買い物通院子どもの送り迎え高齢者の移動

そのすべてにクルマが必要な地域があります。

国土交通省の交通調査でも、地方都市圏では三大都市圏より自動車への依存が強い傾向が確認されています。

つまり地方でクルマは、趣味やぜいたく品ではありません。

生活インフラ。です。

こういう地域で、航続距離/冬季性能/充電場所/停電時の対応/車両価格

そうした不安を無視して、

今日からBEVに乗り換えてください。

とは言えません。

東京の感覚だけで全国の自動車政策を決めると、

地方の人から見れば、

「鉄道がある人たちが、クルマが必要な人たちへ説教している」

ように見えてしまいます。これはよろしくない。


日本の軽自動車文化も無視できない

日本には、軽自動車という独特の市場があります。

小さい/比較的安い/狭い道でも使いやすいし税負担も抑えられている。

地方では一人一台に近い形で使われている家庭もあります。

国土交通省の統計では、日本全国で軽四輪車が3,200万台を超える規模で保有されています。

この市場をBEV化する場合、

大きな問題があります。

それは、価格です。

高級車なら、100万円分のバッテリー価格が乗っても車両全体の価格に吸収しやすい。

しかし、

安さそのものが価値である軽自動車では、バッテリー代の影響が非常に大きくなります。

300万円の高級車が350万円になるのと、150万円の軽自動車が200万円になるのとでは、同じ50万円でも意味が違います。

地方で日常の足として使われるクルマほど、価格上昇の影響が重い。

だから日本では、

小さなエンジン/ハイブリッド/小容量バッテリー/短距離向け軽EV

そうした複数の答えを用意する必要があります。

全部を同じBEVへそろえる必要はないと思います。


電気で走れば、すべてゼロエミッションなのか?

EVは、

走行中に排気ガスを出しません。都市部の大気環境を考えればこれは非常に大きな利点です。

しかし、

クルマが使う電気は、どこかで作られています。

日本の電源構成は再生可能エネルギーや原子力だけではありません。

2022年度には、LNGが33.8%、石炭が30.8%、石油などが8.2%を占め、火力発電への依存が大きい構造でした。

最新のエネルギー基本計画でも、日本の電源構成の約7割を火力が占める現状を踏まえ、脱炭素電源への置き換えが必要だとされています。

つまり、

EVは走行中にCO₂を出さなくても発電方法まで含めれば環境負荷が完全にゼロになるわけではありません。

もちろん、だからEVは無意味だ!という話ではありません。

エンジン車も、

原油の採掘/輸送/精製/給油

その過程でエネルギーを使います。

重要なのはマフラーから出る排気ガスだけでなく、エネルギーの入口から出口まで見ることです。

発電が脱炭素化されればEVの環境性能はさらに良くなります。

逆に、発電の多くを化石燃料に頼ったままクルマだけを急いでEVへ変えても効果は限定的になります。

クルマの電動化/再生可能エネルギー/原子力/送電網/蓄電池

これらは別々の政策ではありません。全部つながっています。


EVが増えれば、電気は夜に勝手に余るのか?

よく、

夜間電力で充電すればいい。

と言われます。基本的な考え方としては理解できます。

多くのクルマが止まっている夜間に充電できれば、

利用者にとって便利です。ただし、何百万台ものBEVが、

帰宅後の同じ時間帯に一斉に充電を始めたらどうなるでしょう。

地域によっては、配電設備/変圧器/マンションの受電容量/ピーク電力。

これらへの対応が必要になります。

逆に充電時間を賢くずらす、電力が余る時間帯に充電する、太陽光発電が多い昼間に勤務先で充電する、BEVのバッテリーから家庭や電力網へ電気を戻す。

そうした制御ができればEVは電力網の負担ではなく、

巨大な分散型蓄電池になる可能性もあります。

つまり、EV普及に必要なのは、クルマの生産台数だけではありません。

充電器の数/電力料金/発電構成/送配電網/充電制御。

すべてを同時に設計する必要があります。クルマ会社だけでは解決できない話です。


日本メーカーは本当に何もしてこなかったのか?

日本メーカーは、BEVへの対応が遅れた。

これは一面では事実でしょう。特に世界のBEV市場では、

中国メーカーやテスラが大きな存在感を持ち、日本メーカーが出遅れたように見える局面があります。

IEAは、日本の電気自動車販売比率が2024年時点で小さく、政策継続を前提とした2030年予測でも他の主要市場より低い水準にあると見込んでいます。

ここは、素直に認めた方がいいと思います。

ただし日本メーカーが、電動化を何もしてこなかったわけではありません。

ハイブリッドモーターインバーター回生ブレーキパワー半導体電池制御燃料電池。

これらの技術は、長年積み重ねてきました。

問題は、その技術をBEV市場の成長へ十分つなげられたかです。

つまり、技術がなかったのではなく、市場の読み方、投資のタイミング、商品構成、ソフトウェア、電池調達

そうした戦略面で課題があった。

「日本は何もしてこなかった」と断じるのも「ハイブリッドがあるからBEVは不要」と開き直るのも、どちらも違うと思います。


世界も、少しずつ「EV一辺倒」から変化している

興味深いことに世界の政策も、

BEV一本へ一直線という状態から少し変化し始めています。

資源エネルギー庁も2026年の解説で、電動化の方向自体は続く一方、各国でEV一辺倒ではなく、HEVやPHEVを含む複数の選択肢を持つ方向へ政策や市場が動き始めていると整理しています。

これは日本が最初からすべて正しかった。という話ではありません。

日本メーカーがBEVへの投資を遅らせてよかった。という話でもありません。

ただ、世界の条件は一つではなかった。ということです。

国土が広い国/寒冷地が多い国/集合住宅が多い国/電力が安い国/再生可能エネルギーが豊富な国/石炭火力が多い国/鉄道が発達した国/クルマが生活必需品の国

条件が違えば最適解も違います。


マルチパスウェイは、逃げなのか?

日本メーカーや日本政府はよく、マルチパスウェイという言葉を使います。

BEV/HEV/PHEV/FCV/合成燃料/バイオ燃料

複数の技術を併存させる考え方です。この言葉を聞くと、

BEVへ踏み切れない日本の言い訳では?

疑いがあります。

選択肢を残すと言いながら単に決断を先送りしているだけなら、それは戦略ではありません。

しかし一方で、

地域も用途も電源構成も所得も住宅事情も違うのにすべてを一つの動力へそろえる方が不自然です。

都市の小型車ならBEV・長距離移動ならPHEV・価格を重視するならHEV・決まった拠点を走る配送車ならBEV・大型商用車なら水素や脱炭素燃料も検討する

そして大都市の大量輸送は鉄道。

そうやって役割を分けた方が現実的ではないでしょうか?

問題は選択肢を増やすことではありません。

どの用途にどの技術を使うのか。

いつまでに何を実用化するのか。その優先順位が曖昧なことです。

マルチパスウェイが戦略になるかただの先送りになるか、違いはそこにあります。


EVは万能ではない。でも、必要である

私は、BEVは不要だとは思いません。

むしろ、自宅で充電できるし

日々の走行距離が決まっている/都市部で使う/短距離配送に使う/太陽光発電と組み合わせる

こうした条件では非常に合理的な乗り物です。

走行中に排気ガスを出さない/静か/低速からトルクが出る/回生ブレーキを使える/自宅で充電できる/オイル交換も不要。

BEVならではの利点は確かにあります。

しかし、長距離を頻繁に走る/充電設備を設置できない/寒冷地で使う/購入価格を最優先する/災害や停電への備えを重視する

そういう人にまで、同じ答えを押し付ける必要は無いです。

適材適所。結局はそこへ戻ってきます。


日本が目指すべきは「BEV比率世界一」ではない

私は、

日本が目指すべき目標は、BEV販売比率で世界一になることではないと思っています。

目的は交通から出るCO₂を減らすこと/都市の大気をきれいにすること/エネルギー輸入を減らすこと/人々の移動を便利にすること/物流を止めないこと/自動車産業の雇用と技術を次の時代へつなぐことです。

BEV比率は、その進捗を見る指標の一つにすぎません。

鉄道を増やしてクルマで移動する距離そのものを減らす/ハイブリッドによって燃料消費を減らす/小型車へ乗り換える/物流を鉄道や船へ移す/再生可能エネルギーを増やす/発電を脱炭素化する/BEVを適した場所へ普及させる/全部を組み合わせた結果として/CO₂が減る。

それが本来の目的でしょう。手段の普及率を目的にしたら、本末転倒です。


今回の力学観測

日本がEV一辺倒にならなかったのは、単純に遅れていたからではありません。

すでにハイブリッドが普及していた。大都市では鉄道が大量の移動を担っていた。地方ではクルマが生活必需品だった。

集合住宅では充電設備の設置が難しかった。軽自動車という低価格市場が大きかった。電源構成には火力発電が多く残っていた。

そして、

自動車産業が巨大すぎた。

そうした力学が重なった結果です。もちろんそれを理由に、BEVへの対応の遅れをすべて正当化することはできません。

しかし、EV販売比率という数字だけを見て、

日本は遅れている/経営者が無能だった/世界から取り残された

と結論づけるのは少し雑です。

日本はBEVへ進む必要があります。

同時にHEVも/PHEVも/鉄道も電力の脱炭素化も必要です。

私は、「何を何台売ったか」より、「社会全体で何を減らせたか」を見るべきだ。と思っています。


シリーズを振り返って

第1回では、

「EVって、クルマだけですか?」

と問い掛けました。

第2回では、

「EV普及率の分母は何なのか?」

を考えました。

第3回では、

EV化によって

市場/物流/雇用/企業戦略/お金の流れ。

そのすべてが組み替わることを見てきました。

そして今回は日本がなぜBEV一辺倒にならなかったのか?

その背景を考えました。このシリーズで私が言いたかったことは、一つです。

EVという一つの数字だけで、国の交通と環境を評価してはいけない。

日本の都市は、

すでに電気で動く鉄道を大量に使っています。

日本の自動車市場は、ハイブリッドという形で電動化を進めてきました。そこへ今後、

BEV/PHEV/FCV/再生可能エネルギー/蓄電池/新しい交通サービス

それらをどう組み合わせるのか?

勝負はこれからです。


※この記事は、私独自の視点による考察です。
異論・反論は絶賛募集中です!

ご自身のブログなどでご意見をまとめていただき、その記事へのリンクをコメント欄に貼り付けてください。


今回参考にした主な資料

  • 経済産業省「自動車・蓄電池産業」
  • 経済産業省「参考資料(自動車)」
  • 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画」
  • 資源エネルギー庁「エネルギー白書2024」
  • 国土交通省「数字でみる自動車2025」
  • IEA「Global EV Outlook 2025」
  • 資源エネルギー庁「世界で見直しがはじまった自動車産業政策」

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