力学観測とは

  • 1.力学観測とは何か
  • 2.Ghost――観測できる制度・構造
  • 3.Phantom――行動の背後にある価値観・前提
  • 4.Spectre――複数の力学が重なって現れる現象
  • 5.Paradigm Phantom――時代全体を支配する前提
  • 6.Paradigm Ghost――価値観が制度として固定されたもの
  • 7.Shadow――観測されたものの裏側
  • そして、「認知内」「認知外」の中でどれだけ力学に乖離が生まれるのか

順を追って説明していきます。

1.力学観測とは何か

最初に、研究所が扱う「力学」は物理学だけではないと説明します。
制度、価値観、利害、慣習、技術、感情、偶然などが互いに力を及ぼし合い、社会現象や人間の行動として現れる。その力の配置を観測するのが「力学観測」である、という入口です。

ここで重要なのは、

目に見えている現象だけが、現象のすべてではない

という基本姿勢なのです。

2.Ghost――観測できる制度・構造

ゴーストは、名前に反して最も具体的なものです。

法律、制度、組織、契約、採用区分、価格体系、住宅ローン、補助金、道路、物流網など、現実に存在し、観測可能な構造。例えば、

  • 新卒採用枠
  • 郵便局の配達制度
  • 電波法・放送法
  • 企業の価格設定
  • 住宅ローン制度

などです。

「見える力学」「記録できる力学」と説明すると分かりやすいと思われる。

3.Phantom――行動の背後にある価値観・前提

ファントムは、制度そのものではなく、制度や行動を生み出している暗黙の前提です。例えば、

  • 大卒者はホワイトカラーになるものだ
  • 持ち家を持って一人前
  • 値上げは企業努力不足
  • 正社員は会社に忠誠を尽くすべき
  • 公共サービスは全国一律であるべき

といったもの。

明文化されていなくても、多くの人の判断を同じ方向へ押している。
つまり、見えないが行動から逆算できる力です。

4.Spectre――複数の力学が重なって現れる現象

スペクターは、単独の制度や価値観では説明できない複合現象です。

例えば円安なら、

  • 日米金利差
  • 原油価格
  • 貿易収支
  • 投資資金
  • 政府・日銀への市場の期待
  • 「円は弱くなり続ける」という投資家心理

などが重なり、一つの巨大な現象として現れます。

つまりスペクターは、

個々の力は観測できても、全体像になると輪郭が揺らぐ現象

です。ゴーストファントムが複数重なった結果として、スペクターが現れる場合もある。

5.Paradigm Phantom――時代全体を支配する前提

通常のファントムより広く、社会全体の物の見方を規定するものです。

例えば、

  • 経済は成長し続ける
  • 大学進学は上昇である
  • 都市化は進歩である
  • 正社員中心の雇用が標準である
  • 自動車は所有するものである

といった、その時代そのものの前提

個人が意識して信じているというより、その時代の人々が無意識に共有している観測枠のようなものです。

6.Paradigm Ghost――価値観が制度として固定されたもの

パラダイムゴーストは、このページの重要な独自概念になりそうです。

もともとはファントムだった価値観が、制度、採用、教育、賃金、都市構造などに組み込まれ、簡単には動かせない現実になったものです。

例えば、

大卒者はホワイトカラーになるものだ

という考え方は、当初はパラダイムファントムです。

しかし、それが、

  • 大学進学率の上昇
  • 大卒採用と高卒採用の分離
  • 初任給体系
  • 学校推薦制度
  • 現場職の社会的評価低下

として固定されると、パラダイムゴーストになります。

つまり、

ファントムとして生まれた価値観が、制度化され、自らを再生産する構造になったもの

と定義したい。

7.Shadow――観測されたものの裏側

シャドウは、ゴースト・ファントム・スペクターの延長線上には置かず、別軸の概念として扱うのがよいと思います。

シャドウは悪や欠陥ではありません。

コインを投げて表が出たとき、裏面が消滅したわけではない。
表として観測された結果の裏側に、同じ質量を持つ別の可能性が残っています。

例えば、

  • 探究心のシャドウとして暴走が現れる
  • 慎重さのシャドウとして機会損失が現れる
  • 忠誠心のシャドウとして組織への過剰適応が現れる
  • 合理化のシャドウとして地域サービスの空洞化が現れる

という使い方です。

シュレーディンガーの猫でいえば、箱を開けて観測した状態だけでなく、観測されなかった側や、観測によって見えなくなった側を考える概念です。

また、コイントスを10回行って表が8回出た場合、裏が2回しか出なかったという事実だけでなく、「なぜ今回この偏りが観測されたのか」も対象になります。

そして、「認知内」「認知外」の中でどれだけ力学に乖離が生まれるのか、そこはこれからの探求となります。