【8月24日追記】
本記事は8月21日時点で確認されていた約2700台の被災車両を起点に考察したものです。その後、8月23日の報道で、熊谷俊人千葉県知事は被災車両が1万台に及ぶ可能性があるとの見方を示しました。記事中で考察した代替車需要や新車・中古車市場への影響は、当初想定した規模よりさらに大きくなる可能性があります。
↓以下原文
千葉県を襲った大規模な水害では、分かっているだけでも約2700台もの車が水没し、道路上などで動けなくなった。
前回は、この大量の水没車について、車両保険/残価設定型クレジット、いわゆる残クレ/所有権などの力学を見てきた。しかし、水が引いて車が撤去されたところで話は終わらない。
約2700台の車が使えなくなったということは、その反対側に「代わりの車を必要とする人」が大量に生まれたということでもある。
今回は水没した車そのものではなく、その後、新車市場と中古車市場にどのような力が加わるのかを観測してみたい。
おはこんばんにちは❗️力学観測研究所のRYOです❗️
大規模災害によって大量の車が失われたとき、次に起きることは何でしょうか❓
答えの一つは単純で、代わりの車が必要になることです。しかし自動車は、壊れた家電製品のように翌日店へ行って同じものを買って帰れる商品ではありません。
ここから、新車市場と中古車市場の双方に力が加わり始めます。
2700台を失えば、その反対側に代替需要が生まれる
もちろん、水没した約2700台がそのまま2700台の買い替え需要になるわけではない。修理できる車もある/家族の別の車でしばらく対応する人もいる/これを機に車そのものを手放す人もいる。
それでも、短期間に大量の車が使用不能になれば、相当数の代替需要が発生する。
特に車が生活の足になっている地域では、通勤/通学/買い物/通院/仕事などのために「しばらく車なしで暮らそう」と簡単にはいかない。
災害報道では「約2700台の車が水没した」という被害として数字を見る。しかし市場側から見ると、同じ数字は「大量の車を新たに調達しなければならない需要が突然発生した」と読み替えることもできる。
ここで、水没車2700台という数字の意味が反転する。

保険金が出ても、新車がすぐ手に入るとは限らない
水没した車に車両保険を付けていた人もいるだろうし、自己資金に余裕があり、そのまま新車へ買い替えられる人もいる。
だから「車を失った人は中古車を買う」と単純に考える必要はない。むしろ十分な補償を受けられるなら、次も新車を選びたい人は多いだろう。
しかし、ここで問題になるのが新車の納期である。
現在の自動車市場では車種によって納期にかなり差があり、人気車種では注文から納車まで数か月、条件によっては半年以上を要する場合もある。
平時なら「半年待ってでも欲しい車を買おう」で済む。しかし昨日まで使っていた車が水没し、明日からの通勤に車が必要な人にとって、半年後の納車は少し話が違う。
そして大規模災害によって新車の注文まで一時的に増えれば、もともと余裕のない供給側へさらに需要が加わる可能性もある。
新車を買う人まで中古車市場へ入ってくる
ここで発生するのが、「新車が来るまで乗る車」という需要である。
例えば保険金が出たので新車を注文する。しかし納車は半年後。それまで車なしでは生活できないので、ひとまず半年程度乗れる中古車を購入する。
すると一人の被災者が、時間差で二つの需要を作ることになる。
最終的に所有する新車/新車が届くまで生活をつなぐ中古車。
つまり災害直後の中古車市場には、「新車を買うお金がないから中古車を選ぶ人」だけが集まるわけではない。新車を買える人、新車をすでに注文した人まで、一時的に中古車を必要とする可能性がある。
ここが通常の中古車需要とは少し違う。
新車の供給不足が中古車市場へ逃げてくる
新車の需要が増えても、メーカーは翌日から生産台数を好きなだけ増やせるわけではない。工場の生産能力/部品供給/輸送/販売店への配車など、それぞれに限界😣がある。
そこで新車供給が需要に追いつかない期間が長くなるほど、その間の移動手段を確保したい需要が中古車へ流れてくる。
大規模災害→大量の車両喪失→代替需要の急増→新車注文の増加→新車供給が短期間では追いつかない→納車待ち期間の移動手段が必要→中古車需要の増加。
こう考えると、新車の納期問題は新車市場だけの問題ではない。
新車側で吸収できなかった需要の一部が、中古車市場へ流れ込む。
そして、その受け皿となる中古車市場にも限界がある。

中古車は工場で増産できない
中古車市場の特徴は、中古車そのものを生産できないことである。(当たり前だが)
新車なら、生産能力などの制約はあるものの、時間をかければ新しい車を市場へ追加できる。しかし中古車は、すでに世の中に存在している車を誰かが手放さなければ増えない。
被災地域で一斉に中古車需要が増えれば、販売店も在庫を確保しようとする。そうなれば同じような価格帯/同じようなサイズ/同じような用途の中古車を、複数の販売店や購入者が取り合うことになる。
需要は突然増えるが、供給は突然増えない。
当然、価格には上昇する方向の力が加わる。
もちろん今回の約2700台だけで、全国の中古車相場が一斉に高騰すると断定する話ではない。全国には膨大な中古車が流通しており、他地域から車を持ってくることもできる。
しかし「同じ地域で/同じ時期に/大量の人が/すぐ乗れる車を必要とする」という条件が重なれば、被災地域やその周辺では強い需給圧力が生まれる可能性がある。
足りない地域へ、全国から中古車が動く
千葉県で中古車需要が急増したとしても、千葉県内にある車だけで対応する必要はない。
中古車販売店はオートオークションなどを通じて全国から車を仕入れることができる。需要が強い地域へ商品が流れるのは、市場として自然な動きである。
千葉で車が足りなくなる→千葉の販売店が仕入れを増やす→他地域から中古車が移動する。
つまり千葉県内で発生した災害であっても、その影響は中古車流通を通じて県外へ少しずつ伝わることになる。
今回程度の規模なら全国市場が大きく揺れるところまではいかなくても、東日本大震災のように広い地域で大量の車が失われる災害になれば話は変わる。
東日本大震災でも多数の自動車が津波などによって失われ、その後は代替車を求める需要が発生した。
災害によって失われた車の数が増えるほど、その代わりを調達しようとする力も大きくなる。

そして新車が届き始めると、今度は逆向きの力が働く
さらに時間を半年から1年ほど進めてみる。
災害直後、新車が届くまでのつなぎとして中古車を買った人がいる。その後、注文していた新車がようやく納車されれば、つなぎだった中古車は不要になる。
そこで売却する。
すると今度は、その車が中古車市場へ戻ってくる。
災害直後には中古車需要を増やしていた人が、新車供給が追いついた後には中古車供給を増やす側へ回ることになる。
つまり同じ災害でも、時間軸によって市場へ加わる力の向きが変わる。
災害直後は中古車不足へ向かう力が強まり、新車納車が進んだ後には、つなぎとして使われていた中古車が市場へ戻ることで供給側にも力が加わる。
大規模災害後の自動車市場を見るなら、災害発生直後だけを見るのではなく、半年後/1年後まで時間を伸ばして観測する必要がありそうだ。
では、今回水没した大量の車はどこへ行くのか
ここまで代替車側を見てきたが、もう一方には今回水没した車そのものが存在する。
適切に廃車処理される車もある/部品として利用される車もある/状態によっては修理される車もある。
水没した車を修理して再販売すること自体を、一律に悪いことだと言うつもりはない。
重要なのは、その履歴が購入者に正しく伝えられているかどうかである。
「この車には冠水歴があります」と説明され、その状態と価格を理解した購入者が選ぶのであれば、それは購入者自身の判断になる。
問題になるのは、水没歴を隠して通常の中古車であるかのように販売するケースだ。

「すぐ車が欲しい」という市場は買う側に不利にもなる
災害後の市場では、一方に「すぐ車が欲しい」という大量の需要が生まれ、もう一方には災害によって大量の水没車が発生している。
もちろん、この二つを直接結び付けて「大量の水没車が不正に販売される」と決めつけることはできない。多くの事業者は適切に処理するだろう。
ただし、中古車市場にはもともと売る側と買う側の情報量の差がある。
一般の購入者が車を見ただけで、過去にどの程度水に浸かったのかまで判断することは難しい。そして災害後のように購入者側が「できるだけ早く車を手に入れたい」と焦っているほど、じっくり比較したり車両履歴を確認したりする時間も減る。
需要が増えること自体が問題なのではない。
「急いで買わなければならない」という時間的制約まで同時に発生するところに、別の力学がある。
「修復歴なし」と「水没歴なし」は同じではない
中古車を探すとき、「修復歴なし」という表示を見る人は多い。
しかし事故などによる修復歴と冠水歴は同じ意味ではない。
そのため大規模水害の後に中古車を探すのであれば、修復歴だけを見るのではなく、冠水歴/水没歴/車両状態/保証内容などを個別に確認した方がいい。
そして「大手だから大丈夫」「有名な販売店だから大丈夫」という看板だけに判断を預けるのではなく、その一台について何が確認されているのかを見る必要がある。
特に相場より不自然に安い車や、過去の流通経路がはっきりしない車については慎重に考えたい。

2700台が止まると、その代わりに別の車が動き始める
災害報道では、道路の冠水/大量の水没車/約2700台もの車が使用不能になったこと、といった「被害の発生」までが主にニュースになる。
しかし経済の力学から見ると、そこは終点ではなく始点でもある。
2700台規模の車が失われれば、代わりの車を探す人が生まれる。新車を注文する人が増え、新車供給が追いつかなければ中古車へ需要が流れ、販売店は全国から車を集める。さらに新車が納車され始めれば、つなぎとして使われていた中古車が再び市場へ戻ってくる。
そしてその裏側では、今回水没した車そのものも、廃車/部品/修理など、それぞれ別の経路を通って移動していく。
道路の上では約2700台の車が止まった。
しかし市場の中では、その瞬間から「代わりの車を動かそうとする力」が発生している。
大規模災害を見るとき、「何が失われたのか」だけではなく、「失われたものを補うために、次に何が動き始めるのか」まで時間軸を伸ばしてみる。
すると水没車約2700台という数字の向こう側に、新車/中古車/納期/価格/全国流通へと連鎖していく、もう一つの力学が見えてくる。
※一次資料および参考資料

※車を買うときは「質問リスト」を作ろう!
- この車に冠水歴/水没歴はありますか❓
- 修復歴はありますか。ある場合、どの部位をどう修理しましたか❓
- この車の仕入れ先はどこですか。オートオークション経由ですか、下取りですか❓
- 過去の流通経路や使用歴は、分かる範囲で確認できますか❓
- 車両状態評価書や点検記録、整備記録は見せてもらえますか❓
- エンジン/電装系/エアコン/ナビなどに不具合歴はありませんか❓
- 保証の範囲はどこまでですか。何が対象外ですか❓
- 納車前にどのような点検・整備を行いますか❓
- もし後から説明と違う点が見つかった場合、返品・返金・修理対応はどうなりますか❓
- この価格はなぜこの金額ですか。相場より安い理由はありますか❓
- 試乗しても大丈夫ですか。異音や違和感を自分でも確認できますか❓
- 「修復歴なし」以外に、購入前に特に確認しておくべき点はありますか❓
※大事なのは、「大手だから安心」「有名店だから安心」で終わらせず、その一台について何が確認されているのかを言葉で確認すること❗


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