水没したクルマ、その後どうなる❓〜任意保険・レンタカー・リース・残クレの力学

【8月24日追記】
本記事は8月19日時点で確認されていた約2700台の被災車両を起点に考察したものです。その後、8月23日の報道で、熊谷俊人千葉県知事は被災車両が
1万台に及ぶ可能性があるとの見方を示しました。記事中で考察した内容の影響は、当初想定した規模よりさらに大きくなる可能性があります。

↓以下原文

引用元:共同通信「千葉豪雨、放置車両の撤去課題 約2700台、一部道路ふさぐ」(2026年8月16日)

8月13~14日の千葉県豪雨では、冠水した道路などで動けなくなった車が大量に残された。共同通信によると県内で約2700台が確認され、千葉市だけでも市管理道路上に約2500台。千葉市はレッカー車などによる撤去を進め、19日の幹線道路上の撤去完了を目指している。

ただし、これは「千葉県で水没した車が全部で2700台」という意味ではない。

道路上で把握された放置車両だけでこの規模であり、自宅駐車場/月極駐車場/商業施設/会社/自動車販売店などで水につかった車は別に存在する。実際の被災車両が何台なのかは、まだ見えていない。

おはこんばんにちは❗️力学観測研究所のRYOです❗️

さて、道路に置き去りになった車を見ていると、単純な疑問が湧いてくる。

これ、誰がどう片付けるの⁉

さらに考えると話は急に面倒になる。

自分で買った車/レンタカー/カーリース/残価設定型クレジット、いわゆる残クレ。

水没してしまえば見た目は全部「動かない車」だが、その後ろ側にある法律/保険/契約/借金はまるで違う。

今回は水につかった車を一台ずつ引き上げながら、その後ろに何がつながっているのか観測してみたい。

まず、車より人間が逃げろ❗

冠水した道路で車が動かなくなった。

「こんなところに置いたら駐車違反になるかも」

「邪魔になるから動かさないと」

「ローンが残っている」

「借り物の車だ」

いろいろ頭をよぎるかもしれないが、水が増えている最中なら話は一つである。

逃げろ❗

車は後で動かせる。人間はそうはいかない。

もちろん災害になった瞬間、道路交通法が消滅するわけではない。ただ、大規模災害では平時とは別に「道路をとにかく開ける」という仕組みが動く。

今回、千葉県は9土木事務所管内で災害対策基本法76条の6第1項に基づく区間指定を行った。緊急車両の通行を確保するため、道路管理者が放置車両や立ち往生車両を移動できる制度である。

道路「そこ、どいて」

水没車「動けません」

道路管理者「では動かします」

かなり乱暴に言えば、こういう制度です。

警察庁も大地震時の指針では、やむを得ず道路上へ車を置いて避難する場合、道路左側へ寄せ/エンジンを止め/キーを付けたまま、または車内の分かりやすい場所に置き/ドアをロックしないよう案内している。これは地震時の指針なので今回の豪雨へそのまま当てはめるものではないが、「災害時には後から車を動かせる状態にして、人間は避難する」という考え方は分かりやすい。

自分の車なら「任意保険に入っている」で安心してはいけない❓

では、安全な場所まで逃げた。

ここから現実が戻ってくる。

自賠責保険は自分の車の水没を直す保険ではない。任意保険に入っていても、対人/対物/人身傷害だけなら自分の水没車は基本的に守られない。

必要になるのは車両保険である。

日本損害保険協会は、車両保険を付けている場合、台風/高潮/洪水などによる自動車の損害が補償対象になるとしている。ただし契約タイプや商品によって異なるので、最終的には自分の契約確認が必要だ。

ここでよくある誤解が、

「安いエコノミー型だから洪水は出ないんでしょ?」

というもの。

必ずしもそうではない。商品によっては限定型の車両保険でも台風/洪水/高潮などを補償している。つまり「一般型(補償範囲の広いタイプ)かどうか」だけで判断できない。

保険という商品は、名前より約款が強い。

さらに新車なら「新価」が効いてくる

もう一段ある。

新車500万円で買った車が数年後に水没したとして、通常の車両保険から必ず500万円出るわけではない。車両保険金額は車の価値に応じて設定されるので、時間がたてば購入時価格との差が出てくる。

そこで新車特約、車両新価特約などと呼ばれる仕組みがある。

たとえば損保ジャパンの車両新価特約では、全損または一定以上の大きな損傷となった場合、実際の再取得費用や修理費について新車価格相当額を限度に補償する。ただし再取得/修理の期限など条件がある。

「つまり、『車両保険に入っている』ことと『新車をもう一度買えるところまで守られている』ことは別の話である。」

ここは残クレのところで効いてくるので覚えておいてほしい。

レンタカーを水没させたら、一台買って返すの?

次はレンタカー。旅先で大雨。借りた車が水没。

レンタカー会社「ありがとうございました。では車両代300万円をお願いします」

……とは必ずしもならない。

大手レンタカーでは基本料金に車両補償が組み込まれている場合がある。ニッポンレンタカーでは、レンタカーそのものについて1事故につき車両時価額までの補償があり、通常5万円または10万円の車両免責額が設定されている。別途CDWへ加入すると、その免責額を免除できる。

ところが、ここで終わらない。

NOC、ノン・オペレーション・チャージ。

修理している間、その車を商売に使えないことへの営業補償である。

ニッポンレンタカーの場合、自走可能なら2万円/それ以外なら5万円。CDWに加入していてもNOCは別で、さらにNOCをカバーする制度もある。

保険「車は守ります」

レンタカー会社「でも商売できない時間があります」

利用者「まだあるんかい!」

こうして保険商品は層になっていく。

しかも警察やレンタカー会社への連絡など所定の手続きを取らなければ、補償制度が適用されない場合もある。

借り物だからこそ、勝手にレッカー/勝手に廃車/勝手に修理は避け、まず貸主へ連絡するのが基本になる。

リース車は「もう乗れないから契約終了」とはいかない

カーリースはさらに分かりやすい。

毎月料金を払って自分の車のように乗っていても、基本的にはリース会社の車である。

そして全損すると、契約そのものが途中で終わることがある。

Hondaの「楽らくまるごとプラン」では、全損事故や盗難の場合は契約が中途解約となり、中途解約金を精算する必要があると明記されている。

つまり、

車がなくなった

乗れない

月額もなくなるではない。

車がなくなった

契約を予定どおり最後まで続けられない

では途中精算しましょう

となる。

なおHondaのこのリース商品では、そもそも車両保険への加入が必要とされている。

ここは後で残クレと比較すると興味深い。

そして残クレ

さて、本丸です。残価設定型クレジット。

たとえば500万円の車について、数年後の価値を250万円と設定し、その250万円を最終回へ据え置く。今払う部分を小さくできるので、

「月々○万円でアルファード✨」

みたいな見せ方ができる。別に悪い商品ではない。

250万円が消えたわけではないだけである。

未来へ送った。

通常なら契約満了時に車を返却する/買い取る/再クレジットなどで処理する。

では、その車が途中で水没して全損したら?

トヨタファイナンスのFAQは非常に簡潔である。

契約中の車が事故全損や盗難になった場合、「一括返済していただく必要がございます」

以上。

金融は容赦がない。

※日産ファイナンス「うちもチェックしてや」

「車がないから残価もないよね」は通らない

ここは残クレを月額料金のように見ていると混乱しやすい。

月々4万円払っていた車が水没した。

利用者「もう車ないんだから契約終わりですよね?」

ファイナンス会社「いえ、残債があります」

利用者「返す車もないんですが」

ファイナンス会社「なので一括精算です」

利用者「……」

残価は「事故が起きたら免除される金額」ではない。

あくまで将来へ据え置いた債務であり、返却予定だった車そのものがなくなれば、むしろ予定していた精算方法が使えなくなる。

日産フィナンシャルサービスも、残価設定型クレジットを契約途中で一括精算する場合、その時点では最終回支払額を「車両返却」で処理できず、クレジット残金全額を精算する仕組みとしている。

車両保険があれば救世主……とは限らない

では車両保険があれば全部解決か?

ここでも金額を見る必要がある。

仮に、残クレ一括精算額300万円/車両保険金300万円

なら、かなり話は楽になる。

しかし、残クレ一括精算額300万円/車両保険金250万円

なら50万円が足りない。

そして、残クレ一括精算額300万円/車両保険なし(⁉)

なら、車0台/保険金0円/借金300万円

という、美しくない三点セットが完成する。

しかも生活に車が必要なら、次の車も買わなければならない。

旧車の残債300万円/手元の車0台/次の車が必要

金融会社から見れば「既に300万円の債務がありますね」

本人から見れば「でも車がないと働けません」

ここから急に、水没事故ではなく信用問題になる。

月々○万円という魔法

ここで残クレそのものを叩いて終わると、あまり面白くない。そういう話題じゃない。

気になるのは、なぜこういう構造が成立するのかである。

売る側は月々の負担を小さく見せたい。

買う側も月々の負担を小さく見たい。

利害が一致している。

販売店「この車、残クレなら月々4万9800円です✨」

客「それなら乗れる」

販売店「なお車両保険/新価特約/税金/駐車場/燃料/メンテナンスまで含めた実質月額は……」

客「その話はあとで」

販売店「はい

誰かが騙しているというより、双方が同じ方向を見た結果、都合の悪い数字が視界の端へ追いやられる。

これが面白い。

残クレは「安い車」ではない。

高額な車の支払い時期を組み替え、将来の車両価値を精算に使う金融商品である。

平時には、その金融部分が車体の後ろへ隠れている。

水没すると突然前へ出てくる。

もし大量の残クレ車が一晩で水没したら?

今回、道路上だけで約2700台。

この中に何台のローン車/リース車/残クレ車があるのかは分からない。車両保険加入状況も分からない。

したがって「千葉で残クレ危機が起きている」と言うことはできない。

ただし思考実験として・・・

大量の残クレ車が同じ地域で水没

車両保険なしの契約者が一定数いる

担保となる車の価値が一気に消える

一括精算が必要になる

払えない契約者が出る

ファイナンス会社に延滞/貸倒リスクが集中する

交通事故なら、一台ずつバラバラに起きる。

洪水は違う。

同じ地域の何百台、何千台を同時に水没させる。

千葉県は今回、9土木事務所管内で放置車両を動かすための法的措置を取った。行政から見れば道路啓開の問題だが、車の後ろ側まで見ると保険会社/レンタカー会社/リース会社/ファイナンス会社にも同時に波が届く。

水は道路だけでなく、契約書の中まで流れ込む。

すると金融会社は何を考える?

もし大規模水害が頻発し、無保険の残クレ車から貸倒れが目立つようになれば、ファイナンス会社は当然考える。

「車両保険、必須にした方がよくない?」

実際、先ほどのHondaのリース商品では車両保険加入が必要である。

では残クレでも、十分な車両保険/場合によっては新価特約などを事実上必須にすればいい。

金融側から見れば合理的だ。

ところが・・・

販売部門「保険込みだと月々○万円が高く見えるんですが」

金融部門「でも担保が水に沈むんですが」

販売部門「……」

ここに販売と金融の力学が出てくる。

月額を軽く見せれば売りやすい/補償を厚くすれば金融商品として安全になる。

どちらも正しい。

だから面倒なのである。

水没すると「誰の車か」より「誰の契約か」が見えてくる

道路に並んだ水没車だけを見れば、全部ただの壊れた車に見える。

しかし一台ずつ後ろをたどれば、

自己所有車→車両保険

レンタカー→車両補償/免責/NOC

カーリース→中途解約/精算

残クレ→残債/一括精算/車両保険との差額

と、まったく別の制度につながっている。

さらに大量被災になると、道路管理/損害保険/自動車販売/自動車金融/個人信用まで一つにつながる。

道路上だけで確認された約2700台の車。

見えているのは車体だけだ。

力学的に注目すべきは、その後ろに2700本以上ぶら下がっている契約の方かもしれない。

そして最後に一番大切な話へ戻る。

水が迫っているときは、そんなことは考えなくていい。

残クレだろうがレンタカーだろうが新車だろうが、

車を捨てて逃げろ

法律保険ローンも、その後で死ぬほど真面目に考えてくれます。

今回の豪雨で被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

水が引けば終わりではありません。車の修理/廃車/保険手続き/ローンやリースの精算/代替車の確保など、その後にも多くの負担が残ります。

被災された方々が一日も早く日常を取り戻せることを願っております。

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