米は「食べ物」だけではなかった
日本人と米との付き合いは、単なる「主食」という言葉では片付けられない。江戸時代、年貢は米で納めることが原則で、領地の経済力は石高で表され、武士の俸禄にも「石」という単位が使われた。
地域や時代によって金銭で納める場合もあったが、米が租税、財政、身分秩序を支える重要な物差しだったことは間違いない。
米は食べ物であると同時に、富や国力を測る尺度でもあった。
全国から集められた年貢米の多くが大坂へ運ばれ、諸藩は中之島周辺などの蔵屋敷から米を売却した。そこでは米と交換できる米切手が取引され、1730年には幕府が堂島の米取引を公認した。
現物だけでなく、将来の米価を帳簿上で売買する帳合米商いも発達し、堂島米市場は組織化・制度化された先物取引所の先駆けとして知られている。日本人は米を炊いて食べるだけでは飽き足らず、税にし、給料の尺度にし、領地の価値を測り、証券の裏付けにし、ついには先物市場✨️まで作った。米は確かに、日本では特別な商品だった。
おはこんばんにちは❗️力学観測研究所のRYOです❗️
新米の方が古米より安いらしい
そんな長い歴史を持つ米について、2026年8月、「新米2000円台」「去年のコメより新米が安い“逆転現象”」というニュースが報じられた。
前年産米を高値で抱えた流通側に在庫が残る一方、新米はそれより安い価格で出回り始める。高い価格で前年産米を仕入れた/思ったほど売れなかった/在庫が残った/そこへ安い新米がやって来た――非常に単純化すれば、起きていることはこういう話である。
もちろん米が日本で歴史的に特殊な位置にあったことは分かる。しかし現在の米に関わる人たちまで、「米は特別なのだから、自分たちも特別に扱われて当然」という感覚を、どこか無意識に持ってはいないだろうか❓️
過去には確かに存在した特殊性が、制度や商習慣が変わった後にも幽霊のようについて回る。これをここでは「パラダイムファントム」と呼んでみたい。
ほかの農業を並べてみる
日本で農業を営んでいるのは、当然ながら米農家だけではない。
酪農家は乳牛が毎日乳を出すため、「相場が悪いから半年搾乳を延期する」とはいかない。養鶏も同じで、鶏は米価チャートを眺めて産卵を休んではくれない。酪農には加工原料乳への支援、鶏卵には価格差補塡や供給過剰時の生産調整を促す制度がある。
つまり、重要な食料だから政策支援があることと、どんな損失でも無条件で救済されることは同じではない。
小麦と大豆には、海外との生産条件の格差を補う「ゲタ対策」がある。サトウキビも、安い輸入糖との競争を前提として国内生産を維持するための交付金制度を持つ。牛肉には「牛マルキン」があり、生産費と販売価格の関係を見ながら経営を下支えする。玉ねぎなどの指定野菜には価格安定制度があり、価格が大きく下落した場合の補塡ルールがあらかじめ設けられている。どれも保護はあるが、何をどう支えるのかがそれぞれ違う。
果樹も簡単ではない。リンゴやブドウは木を植えた翌日から収穫できるわけではなく、需要が変わったからといって翌年すぐ別の商品へ転換できるわけでもない。ワイン用ブドウなら、品種や品質がワイナリーとの契約に強く結びつく。ジャガイモでは、カルビーのように契約農家と需要側があらかじめつながり、栽培、収穫、貯蔵まで含めて年間供給を組み立てる例もある。
牛乳/卵/小麦/大豆/牛肉/玉ねぎ/ジャガイモ/リンゴ/ワイン用ブドウ/サトウキビ。どの品目にも固有のリスクがあり、それぞれ違う方法で処理されている。

米だけ、いろいろな話が一つになっていないか❓
米の話になると、農家の所得/水田の維持/食料安全保障/政府備蓄/JAの集荷/卸売業者/小売価格/前年産米の在庫が、妙に一つの巨大な問題として語られやすい。
今回のニュースで特に気になるのは、「前年に高値で仕入れた米が残っている」という部分である。これは農業政策の問題なのか。それとも在庫を持つ商売ならどこにでもある話なのか。
高値で仕入れた商品が、その後の市場価格下落によって仕入れ値を下回る。商売では珍しくもない。
問題は、そのサンクコストまで「米だから」という理由で特別な事情として扱い始めたときである。
農家の所得をどう支えるか、水田をどう残すか、食料安全保障をどう設計するかという話と、民間事業者が高値で抱えた在庫の値下がりは、本来それぞれ別の話である。
わかりやすく4K液晶モニターの話で例える
例えば2025年、ある家電量販店が27インチ4K液晶モニターを4万円で大量に仕入れたとする。ところが2026年、性能が上がり、HDRにも対応し、去年より高性能な27インチ4Kモニターが2万円で販売されるようになった。倉庫には去年4万円で仕入れた旧モデルが大量に残っている。

しかも新型の方が性能がいい❗️去年4万円で仕入れたことは、今年その商品に4万円の価値があることを意味しない。
市場価格は、あなたの仕入伝票まで「知らんがな」

参照元/ソース
テレビ朝日系(ANN)「新米2000円台」去年のコメより新米が安い“逆転現象”
日本取引所グループ「堂島米市場・米先物取引の歴史」
日本取引所グループ「堂島米市場」
農林水産省「鶏卵・畜産物の価格安定対策」
農林水産省「経営所得安定対策(ゲタ対策・ナラシ対策)」
農林水産省「2026年産さとうきびの生産者交付金単価」
農林水産省「肉用牛肥育経営安定交付金(牛マルキン)」
農林水産省「果樹農業」
カルビー「契約生産者とフィールドマン」
カルビー「じゃがいもの収穫・貯蔵・出荷」
Yahoo!ニュース(テレビ朝日系ANN配信)


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