BYDはすでに海外で結果を残している
BYDは、衝突安全性能について実績のない自動車メーカーではない。たとえばBYD DOLPHINは2023年のEuro NCAPで最高評価の5つ星を獲得している。2025年には、より小型のDOLPHIN SURFも5つ星を獲得。前面衝突、側面衝突など、実際に車体を壊し、ダミーに加わる傷害値を測定した第三者試験を経て評価された結果だ。
つまりBYDは「安全に作っています」と主張しているだけのメーカーではない。実際にぶつけた。測った。そして結果を残した。
おはこんばんにちは❗️力学観測研究所のRYOです❗️今回はADASなどの「ぶつからないための安全」ではなく、ぶつかったときに人を守るパッシブセーフティ、つまり衝突安全性能について考える。
では、日本専用の軽自動車RACCOは❓️
2026年、日本の軽自動車市場にBYD RACCO(ラッコ)が参入した。ここで重要なのは、RACCOが海外で販売している既存車を日本の軽自動車サイズに縮めただけのクルマではないことだ。
BYDはRACCOについて、日本の軽自動車規格に合わせ、シャシ、ボディ、駆動・制御システムなどを新たに設計したとしている。高強度鋼を70%以上使用したボディ、超高張力鋼を使った骨格、6エアバッグ、ブレードバッテリーを車体構造の一部として利用するCTB、電装部品を集約して衝撃吸収空間を確保するX-PACKなど、パッシブセーフティを意識した技術も数多く投入したという。
そして開発目標のひとつとして、JNCAPで最高レベルの評価を獲得できる軽EVを目指したとしている。
なるほど。ではRACCOは、JNCAPで何点だったのか❓️
まだ分からない。
現時点でRACCOのJNCAP衝突安全性能評価は未実施だからだ。
「最高評価を目指した」と「最高評価を獲得した」は違う
ここには大きな違いがある。
「JNCAPで最高評価を取れるクルマを目標に開発した」
「JNCAPで最高評価を獲得した」
この二つは、まったく違う。「満点を目指して勉強した」と「試験で満点を取った」が同じではないのと同じだ。
高強度鋼を使った。超高張力鋼を使った。衝撃吸収空間を確保した。CTBを採用した。6つのエアバッグを付けた。それらから分かるのは「衝突安全性能を高めるために何をしたか」までだ。
では実際に衝突したとき、キャビンはどこまで維持されるのか❓️頭部や胸部の傷害値はどこまで抑えられるのか❓️側面から衝突されたとき、大きな開口部を持つスライドドア周辺はどう変形するのか❓️
それを確かめるために衝突安全試験がある。
軽自動車は、ただ小さい普通車ではない
そしてRACCOの場合、この確認は非常に重要だ。日本の軽自動車には、全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下という極めて厳しい寸法制約がある。その小さな箱の中に人を乗せ、荷物を積み、現在のスーパーハイト系なら広大な室内空間とスライドドアまで成立させながら、衝突時には適切に車体を潰してエネルギーを吸収し、乗員の生存空間を残さなければならない。
単純に硬い鉄を使えば解決する話ではない。硬すぎても衝突エネルギーを乗員側へ伝えてしまう。柔らかすぎれば生存空間を守れない。どこを潰し、どこを残し、どこへ力を逃がすのか。
日本メーカーは、この特殊な軽自動車規格の中で何十年も車体を壊し、事故を分析し、改良を積み重ねてきた。軽自動車は普通乗用車を小さくしただけのカテゴリーではない。日本独自の制約条件の中で、衝突安全性能そのものを育ててきたカテゴリーでもある。
そこへBYDが初めて挑戦する。
BYDには普通乗用車での実績がある。海外NCAPで実際にぶつけ、5つ星を獲得してきた。しかし、その試験を受けたクルマはRACCOではない。
RACCOは日本の軽自動車規格に合わせて新たに設計された車体だ。スーパーハイト、スライドドア、床下にはEV用バッテリー、そして全幅は約1.48m。これまで普通乗用車で高い衝突安全性能を実現してきたBYDが、この極端な制約条件の中でも同じような結果を出せるのか。
非常に興味深い。
実際にJNCAPで試験すれば、5つ星を獲得する可能性は十分にあると思う。
だが、まだ取っていない。

なぜ日本の自動車メディアは先に答えを出せるのか❓️
ここで気になるのが、一部の日本の自動車メディアだ。
RACCOについて、高強度鋼をこれだけ使っている。衝撃吸収空間をこれだけ確保した。CTBを採用した。BYDは海外NCAPでも高い評価を得ている。JNCAP最高評価を目標に開発した。
そうした説明を並べた先に「安全性が高い」という評価が出てくる。
ちょっと待ってほしい。
その「だから」を確認するために、衝突試験があるのではないか❓️
BYDが「これだけ安全性能を考えて設計した」と説明することと、その設計によって実際に高い衝突安全性能を実現したことは別だ。
しかも興味深いことに、BYD自身はその二つを区別している。「JNCAPで最高評価を獲得した」とは言っていない。最高レベルの評価を獲得できる軽EVを「目標として開発した」としている。
当然だ。まだ試験結果が出ていないからだ。
メーカー自身が「目標」と「結果」を分けている。
ではなぜ、それを伝える側の自動車メディアが、その間にあるはずの衝突試験を飛び越えてしまうのか❓️
「JNCAPの結果を待ちたい」と、なぜ書けないのか❓
メーカーが高強度鋼を使ったなら、その事実を書けばいい。衝撃吸収構造を工夫したなら、その構造を解説すればいい。海外で5つ星を取った実績があるなら、それも重要な情報だ。
そして最後に「RACCOそのものの衝突安全性能については、JNCAPの結果を待ちたい」と書けばいい。
なぜこれが書けないのか❓
メーカーが発表した設計内容と、実際に確認された性能を切り分けることこそ、自動車メディアの仕事ではないのか。
「BYDは高い衝突安全性能を目指してRACCOを設計した」
確認できる。
「BYDは海外NCAPで高い実績を残している」
確認できる。
「RACCOはJNCAP最高評価を目標として開発された」
確認できる。
では「RACCOの衝突安全性能は高い」は❓️
まだ分からない。
それだけの話だ。

おそらく5つ星だろう。それでも、「まだ」5つ星ではない
おそらく5つ星だろう。それでも、5つ星を取るまでは5つ星ではない。期待値と実測値は違う。設計目標と試験結果は違う。過去の実績と、新しく作ったクルマの成績も違う。
そして衝突安全性能は、試乗しても分からない。
アクセルを踏めば加速は分かる。ステアリングを切ればハンドリングは分かる。段差を越えれば乗り心地は分かる。室内の広さも、静粛性も、視界も試乗すれば評価できる。
だが衝突安全性能だけは違う。
ぶつけるしかない。
その性能についてだけ、なぜ実際にぶつけた結果が出る前から評価できるのか❓️
RACCOがJNCAPで本当に5つ星を獲得したなら、そのときは大いに評価すればいい。軽自動車初挑戦で最高評価を取ったなら、それこそBYDの衝突安全設計能力を示す非常に価値のある実績になる。
しかし、まだ答案は返ってきていない。
「満点を取れるように勉強した」と本人が言っているから、採点する前に100点を付ける。
そんな試験はない。
目標は結果ではない。設計思想は実測値ではない。そして、まだ採点されていない答案に、メディアが先に満点を付けてはいけない。



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